よく、消費者である我々が店に対し24時間営業や年中無休営業など過度なサービスを要求するせいでブラック起業が増加しているといった主張がなされるが、問題の本質はそこではないだろう。
一番重要な線引きとして念頭に置いておきたいのは、要望や希望を述べることは法律違反に当たらない買い手としての正当な交渉手段であるが、長時間残業や残業代の不払いは法律違反に当たる明確な犯罪行為である、ということだ。
よって、じゃあどこで犯罪行為が行われているかというと当然ながら「会社(雇用主)→従業員」の間で発生しており、買い手にその責任は一切ない。実際に従業員が残業代の不払いを理由に訴える相手は会社であって、その客ではないだろう。
消費者の過度なサービス要求に対しては、会社が率先して断固拒否の姿勢を取らなければならないのが正しい姿である。
どうしても消費者の要求に応えたければ、従業員の数を増やすなどすればそれで解決するはず。従業員の補充をしないまま、法律違反に至るまで従業員を酷使していい道理はない。
実際に、あこがれの職業として名高い公務員(主に市役所勤務を指している)や医者(主に町中の個人病院勤務を指している)は、客から土日祝日の営業も求められているのに、そうしないだろう。
大型病院で土日もやっているところはあるが、その分人を多く雇っていてシフトで回している。銀行……はあこがれかどうかはちょっとわからないが、こちらも土日の営業を求められているのにも関わらずそうしない。
このように、たとえ客が年中無休営業や24時間営業を求めていようと、経営者がちゃんと断るなり人手を増やすなどの対策を講じていれば、慢性的な長時間労働にはならないのである。
そしてむしろ、「俺たち消費者が過度なサービスを要求するから、ブラック起業がはびこるんだよ!」と主張している人間の方が、ブラック企業でありがちな“責任の擦り付け”を増長させている主犯であると言えよう。
企業が勝手に法律違反をしているのに対し、消費者を原因に仕立てあげる輩のせいで、本来企業にすべて降り懸かるはずの責任問題がよそに分散されてしまって、結果企業側の罪の意識が薄くなっているのだ。
また、こういった考えの人がもしも経営者という立場になったら、どう考えるだろうか?
「――そもそもの原因は客が勝手な要求をするからだ。我々はそれに応えようと、お客様のためを思ってたとえ苦しくても必死になってやっているんだ」となるのではないだろうか。
お客様のためを思うのはいいだろう。だが、そのために法を犯してはいけない。ユーザーファーストとは、この国の最低限のルールである法律をまず守った上での理念である。
そのことを決してはき違えてはいけない。客のためを思うのならば経営ではなくボランティアをやってればいいし、ボランティアがしたいのならば一人で勝手にやってればいいんだ。
会社として人を雇用する以上、労働基準法は大前提として守らねばならない。それができないのならば、人を雇用する資格はない。
24時間労働を廃止したことによる、法律以外の問題とは?
上記で述べたのは主に法律を主軸とした正当性であるが、法律以外においても問題点はある。以下には、それについて述べよう。
1.昼勤務の強制と、自由意志の束縛問題
24時間労働の廃止において、主にそのモデルとなっている業態はコンビニエンスストアである。
24時間年中無休営業の店としておそらく最も一般的で、そして我々の生活にも深く根付いているからであろう。
さて、そんなコンビニの24時間営業を廃止しろ、というのはつまり夜遅くまでの営業をやめろという意味である。決して、「昼営業をやめて夜間だけの営業にしろ」という意味ではない。
……そう、するとそこに問題が生じてしまう。なぜならば、みんながみんな昼に働きたいわけではないからだ。
確かに、昼に働きたいと思う人が一般的で、多数派だ。それは事実である。であるが、それがすべてではないのもまた事実。
マジョリティの意見によって少数派の意志と自由が黙殺されてしまうのは、数の暴力だ。夜に働きたい人は、犯罪者でもなんでもないのにただ少数派だというだけで自由を拘束されることになる。
だがよく考えてほしい。本当に悪いのはマイノリティの彼らではなく法律を守らない経営者だ。本当に悪いのは、24時間営業ではなく長時間労働なのだ。
そこをはき違えて少数派の意志を踏みにじるのは、悪徳経営者の非人道的所業と同じではないか。
また、割を食うのはなにも働き手だけではない。
というのも、働き手が存在していけるのはそこにニーズがあるからだ。つまり、夜間の営業を欲している消費者がいるからだ。
夜間営業がなくなってしまえば、彼ら消費者も当然割を食う。別に悪いことでも法律を犯しているわけでもないのに、彼らにとって当たり前だった日常が一つ奪われてしまうんだ。
夜間営業の廃止くらいで大げさな、と思われるかもしれない。
ただ、そう思うのはあなたにとって夜間に店が開いているということにそれほど需要がないだけである。夜に生活基盤をおいている者からすれば、君たちで言うところの「昼に店が全店が閉まっている」ことにほかならないのだ。
2.営業時間を短くすれば、その分従業員も不要になる
法律以外の問題点はほかにもある。それが、雇用問題だ。
こちらも単純な理論ではあるが、営業時間を短くすればその分従業員が必要なくなるので、雇用の受け皿が減ってしまう。
すると社会全体として望まない無職が増えるし、既に24時間営業を取り入れている企業ではそのあまった人材をどうするかの問題も出てくる。つまり、失業者問題及び人件費問題だ。
24時間営業を取り入れている店――たとえばコンビニやファミリーレストラン、居酒屋にカラオケボックス、ヤマト運輸(違うw)などが、あるとき急に一斉に24時間営業を廃止したら、そこで夜間働いていた人間はどうなるだろうか?
(法律で24時間営業を禁止にすればどの業界でも一斉にならざるを得ないし、タイミングをずらしたところで根本的な問題が解決するわけでもない)
おそらく彼らの大半は職を失うことになるだろう。そしてそんな彼らを支えるのは、回り回って私たちの税金で、ということになる。なんだ、結局自分たちの首を絞めるだけではないか。
この問題は24時間営業だけでなく、年中無休営業の廃止でも同じことだ。
じゃあ、どうすればいい? 代替案は?
長時間労働を抑制するための手法としては、営業時間の削減よりも従業員の増員を促すべきではないだろうか。
こうすれば雇用の受け皿もむしろ増えるし、夜間のみならず早朝や昼間においてもいわゆる「ワンオペ(※従業員一人で店を回している状態のこと)」のようなこともなくなる。一人あたりの仕事量が減り、長時間労働もなくなるだろう。
問題点があるとすれば企業側が人材を確保できるかどうかの点であるが、そもそもで言うとこれまで残業や長時間労働を前提とした計算で次々と他店舗展開していたのが悪い。ただの自業自得だ。
元々定時内で収まる仕事量で回していれば、(ってか本来そうすべきなんだけど)人手不足にはなっていないし従業員を増やす必要すらない。今までそれをしてこなくて従業員に長時間労働を押しつけていたのならば、いざ自分が人手不足で困ったところで自業自得なんだから「人がほしけりゃ賃金上げれば?」としか言いようがない。
人手が足りてないならそれに合わせて事業もこぢんまりとしていればいいんだ。
えっ、「そしたら潰れてしまう」って? じゃあ潰れれば?
まともな労働量に戻すために本来必要な人手を雇い入れることができない事業なんて、もうそれ終わってるよ。人を酷使したり、法律違反しないと生きていけない会社なんてなくなってしまった方がいいんだ。
「そしたら雇用の受け皿が減ってしまうだろうが!」って?
でもおめーんとこ、まともな受け皿じゃねーじゃん。その皿割れちゃってるじゃん。しかも修復も不可能じゃん。それってもはやただのゴミじゃねーの?
法律は守れない、そして改善することもできないのであれば、それはもう社会にとって必要ない。必要ないっていうか、即刻消えるべきである。
最後に
もしもあなたが、年中無休反対! 24時間営業反対! と唱えていたのならばもう一度よく考えてほしい。本当に悪なのは、年中無休なのだろうか? 24時間営業なのか? ――そして、それを求めている顧客なのか?
本当に悪いのは、従業員をぞんざいに扱っている企業ではないのか?
もう一度、問いかけてみよう。
我々の生きる未来が、本当に良い社会に変わってゆくために。
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