私は昔リクルーティング関係の仕事をしていた経験があるのだが、そのときによくきいた台詞がある。端的に言うと、以下のような台詞だ。
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その会社で働き続けるための理由が根性な時点で、その会社でずっと勤めるに値する良いところがないことの証明では?
そんなんだからおまえんとこの離職率いつまでたってもくそたけーんだよ、などと思いつつも私ももういい大人なので、とりあえず「アーソッスネー」とだけ返しておくマシーンになりきっていた。アーソッスネー!
さてさて、ブラック企業でしばしば聞くこの文言。及び浸透している残念な思想。それがこの、「会社を辞める=根性がない」というあまりにも謎過ぎる摩訶不思議ロジックである。
論理破綻にもほどがあると思うので、今回の記事では「辞めることは決して根性の有無とは直結しないし、ましてや仕事は根性でやるものでもないだろ」ということを説明していこう。
ちなみに優良企業ほど離職率は低くなるという小学生でもわかりそうな統計があるぞ!
目次
退職すること=逃げることではないこれだけの理由
1.他にやりたいことができた、もっとスキルアップできる仕事がしたいなどの向上心による退職
職場や仕事環境によっては、いまいちスキルアップが望めなかったり、諸先輩方の姿を見て自分の目標とするビジョンとは違うな、と思うこともあるだろう。
さて、今スキルアップとややイイカンジの表現をしてみたが、もっと直接的な表現をすると、
「昇給もボーナスも少なく40、50になっても低賃金で働くみじめな上司の姿を見て、自分もこのままここで働いたところでああなるだけだ」と思い転職することもあるだろう。
こういった理由による転職はむしろ向上心による前向きな転職理由であるため、根性がどうのとはなんら関係がない。むしろ冷静に現実を見据えた上での損切りである。
そんな人を捕まえて、「あいつは根性がなかっただけだ!」とのたまうのは、考え方があまりに大きくズレすぎている。
むしろ新しいことにチャレンジしようとせず、低い現状をなにも改善しようとしないおまえこそ根性がない。
そのほか、「独立して、ただ雇われるだけの人間から卒業したい人」もいるだろう。こんなに根性のある人に向かって、「逃げるのか? おまえは根性がないなあ」というのは絶対的に違うだろう。
いいか。現状維持を続けるよりも、挑戦することの方がよっぽど根性が必要なんだよ。
2.ブラック企業に刃向かわずぺこぺこ頭を下げるのがおまえの根性なのか?
安い給料。上司からの理不尽な要求。取れない有給休暇。支払われない残業代。相次ぐ休日出勤……。
さてさて、これらはブラック企業にありがちな労働環境であるが、そういった悪事に対してただ我慢し続けることがおまえにとっての根性なのか?
たとえばいじめっ子に対して、なんの反抗もせず「やめてくれ」とも言わず、ただ殴られ続けることがおまえにとっての”根性”なのだろうか。
であればどうやら、そもそもの「根性」に対する捉え方がどうも私とおまえとでは違うらしい。
私にとっての根性とは、強大な相手に対しても勇気を振り絞って正義を貫くことだからだ。決して、いじめられているのを我慢することが私にとっての根性ではない。
それを私は、きみにとっての”根性”を私は――「卑屈」と呼んでいる。
3.他にどこにも行く当てのない、転職市場における落ちこぼれクンの方が必死にしがみつくわ
そもそも、低俗な環境の中でも根性出して我慢し続けなきゃならないのは、そいつが他に行く当てのない能力の低い人間だからである。
有能な人間はどこの企業もほしがるので、転職には困らない。だから会社から理不尽な目に遭わされても、別にわざわざ根性なんて出す必要ないんだ。
だって、「根性」などという生産性の著しく低いものよりも、もっと利益に直結する「能力」を持っているから。
一方、今いる会社にしがみつくしかない能力のないカスほど転職もできないので、生活のために我慢して根性で勤め続けるしかないのだ。あはれなり。
4.根性うんぬん以前に、それぞれ環境や抱えているものが違う
人間それぞれ家庭環境や経済環境も違えば、持っている価値観も違う。
たとえば親の介護などが理由で辞めざるを得ないときだってあるし、別に一つの大きな理由でなくとも、いくつかの小さい理由が集まって「退職」がその人にとっての最適解になることだってある。
ましてや、その人が何に重きを置いているかの価値観だって、みんなそれぞれ違うんだ。
そういった事情も知らないで、しかも自分の価値観だけで「あいつ辞めるんだってよ、根性ねえなぁ」と言うのはただの決めつけである。
むしろそういう視野の狭い人ほど積極的に転職をして、ほかの世界を観た方がいい。
5.会社を根性で続けるという考え方がもうおかしい
最初の方でもちらっと述べたが、勤め続ける理由に根性が必要なのがもうだいぶ狂ってる。働くってまずそういうもんじゃないし、
ふつうに魅力のある会社ならば、別に根性なんか必要なく「この会社で働き続けたい!」と思うだろう。
それはたとえば「人間関係が良好」だとか、「給料が良い」だとか、「安心して働ける」だとか、会社によって持っている魅力は様々だが、いずれにせよ魅力ある会社というのは勤めるにあたって根性はいらないし、だからこそそういう会社はこぞって離職率も低い。
勤め続けるのにあたって根性が必要な時点で、その会社になにも魅力がないことの証明である。
根性で続けなければならないような良いところのない会社なんか、もう辞めた方がいいでしょ。逆に続ける理由がないわ。
6.法律を守っていない企業には文句を言う資格はない。労働者に責任転嫁をするな
もしも会社が法律を守っていないようなブラック企業であるのならば、辞めていく従業員に文句を言う資格がまずもってない。
法律を守っていない企業なんざ、言ってみればただの粗悪品である。辞めていく従業員からすればただゴミを捨てただけにすぎない。
捨ててしまった方がいいゴミを廃棄するのに、いったいどうして根性が必要だろうか。
ましてやこの世に害悪しかもたらさないゴミとそんなとこで働くしかないようなカス風情が、まともな環境に漕ぎだそうとしている立派な人間に向かって文句を言うとはなにごとか。
犯罪企業及びその片棒を担いでいる人間と比べたら、働いていない方がよっぽど世のためである。
番外1.根性で仕事をするような働き方をしていては、キャリアは上がっていかない
「サラリーマンとは、たとえつらくても根性を出して勤め続けるものだ」という思想の会社では、日々の仕事も根性論などの体育会系的脳筋思考で行っている。
このような働き方では工夫もクソもないし、ただかけた時間と労働力をそのまま成果に変換しているだけである。
これじゃあ生産性は上がっていかないため、より成果を上げるにはより根性を出すしかないわけだが、そんなことをしていてはただただ疲れるだけである。
また残念なことに付加価値をなにも生み出せないので、人間的にも成長しない。
もし会社がつぶれて再就職することとなった折りに、アピールできることが「まじめにがんばりました! 根性は人一倍あります!!!!」くらいしか言うことがないゴミ人材となり果ててしまう。
バイト志望の学生ならそれでもいいが、正社員志望であれば新卒でもキツい。中途なら論外である。まあ、同じようなカス企業でなら通用するかもしれない。がんばって!
しかしもし、今の根性だけしかないクソキャリアに危機感を抱いてくれたのならば、とりあえずリクナビNEXTを見て見識を広げるといいだろう。
今すぐに転職しろだなんて言わない。まずはただ”知る”ことから始めればいいんだ。
「あ、こんな会社(業界)もあるんだ」
「自分の今のキャリアで、スカウトってどれくらいくるんだろう」
そういうのを知っていることもまた、一つのスキルだから。