フリーランスや起業家、個人事業主などの、「サラリーマンを辞めて独立する」ことに対する不安点やデメリットとして挙げられることの多い事項。それが、「収入が不安定」であること。
しかしながら私は、それがデメリットではなくメリットであると考えている。
そしてむしろサラリーマンのメリットとして挙げられている、収入が安定していることのほうが、毎月安定した収入があることに油断しているせいで、あるとき急に会社が倒産したときに何の手も打ってなくて死ぬ奴が多い実質のデメリットであると考えている。
(おそらくそれは、統計的にも確かなのだろう)
もちろん中にはサラリーマンとして安定的な収入を得ながら、さらに副業として別途暮らしていけるくらいのインカムを確保している者もいるだろう。彼らは例外的に当てはまらないが、しかしながら例外と言えるほどにその数は少ない。
毎月もらえるサラリーにかりそめの安寧を得て、のうのうと危機感もなく暮らしている仕事のできなさそうなリーマンのほうが圧倒的大多数である。そして会社が傾いたりクビを切られたりして失業となったときに、途方に暮れるしかないのだ。
だって危機感の薄い安定の中に身を投じていたせいで、これまで何の準備もしてこなかったから。その安定が、実際には吹けば飛ぶようなハリボテであるのにも気づかずに。
その一方で、収入が常に不安定な世界に身をおいている者は、持っている危機感や意識からして大きく違う。
不安定で入るお金の予定が見えないからこそ計画的にお金を使っていかなければならないし、不透明な明日以降に備えて貯めておかなくてもならない。
そしてそのお金を稼ぐために投じる時間についても自分でマネジメントする必要がある。目先のお金を得ようとするあまり根を詰めすぎても、体をこわしてしまって逆効果になるからだ。
しかし、だからこそ磨かれる。
たとえば個人事業主や経営者にとっては、いくつもの収益経路を確保しておくことは当然のことであるし(取引先を一社のみに頼ってるとかありえないでしょ、ふつう)、忙しくなって自分の手が回らなくなったときのために同業の仲間や外注先と友好的な関係を築いておくのもまあわりとやってることだ。
(私なんか大して忙しくもないのに仕事を丸投げしてマージンだけ取ってるぜ!!)
ところがほとんどのサラリーマンは、自分の収入経路の100%を勤め先の会社にゆだねているカスばっかりだ。いくらなんでもビジネス感覚なさすぎるだろうよ。
……と、このように、我々フリーランサーや経営者は収入が不判定であるからこそお金に対する考え方や取り組み方、あるいはセンスと呼ばれるものが、収入の安定しているサラリーマンと比較して常日頃から鍛えられている。
…………。
前置きが長くなってしまったが、収入が不安定であることのメリットを簡潔に紹介しよう。
目次
収入が不安定であることのメリット
1.常にお金のコトを意識でき、アンテナや金銭感覚が磨かれる
前述したことのおさらいになるが、収入が不安定な環境に身を置いてる分、お金を「稼ぐこと」「使うこと」「貯めること」それぞれにおいて常に考えていなければならない。
またサラリーマンと違って、とりあえず出勤してさえいればお金がもらえるわけではないので、自分の生活のためにもより時間的生産性を意識した働き方をする必要がある。具体例を挙げると、客先との打ち合わせ訪問における意識の違いなどがそうだ。
サラリーマンの場合は打ち合わせにかける時間や客先までの移動時間、はたまた交通費なども全額経費として落ちるため自分の懐に入るお金には何の影響も出ないが、
(むしろ影響が出るのならば絶対にサラリーマン辞めて独立した方がいい。それか最低限まともな会社への転職。特にありがちなのは、営業職で「移動時間は働いている時間じゃないからその分サービス残業をしろ」という謎理論を展開してくるブラック企業。法律じゃそんなの通用しません)
個人事業主にとっては利益にならないため可能な限り回数を少なくするような働き方をする必要がある。
そしてなにより、お金を稼ぐ行為における当事者意識がまるで違う。それによって数年後には成長の仕方に明確な差が出るだろう。他人の事業を(しかも複数人で)手伝っているか、それとも自分の事業をやっているかの違いとはそれほどまでに大きいのだ。
2.不安定であるリスクよりも、収入レンジが青天井であるベネフィットのほうが大きい
なにげに大きいのはここ。
確かにフリーランスや自営業者は収入が不安定である。しかしだからこそ、その上限においても可能性は無限にある。
その逆に、給料が安定しているということは同時に、それだけ増えないということが言える。
特に会社は、従業員の給料をおいそれと下げることが法的にも慣例的にもできない。だからこそ、簡単に上げることもできない。
一度大きく上げてしまったら、次に下げるのが非常に困難だからだ。だから利益を上げた人にはボーナスで調整するしかないが、そのボーナスの上限下限範囲もやはり実際問題として良い意味でも悪い意味でも”安定”したものになっている。
役職も年齢も同じ同期の3倍利益を上げたからと言って、年収が3倍にはまずならないだろう。
しかし一人親方ならば、それがなるのだ。それこそが収入が不安定であることの最大のメリットである。
番外:一定額以上の貯金があれば、最大のデメリットがほぼなくなる
収入が不安定であることの一番の悩みはなにか。
それは、「来月(明日)もちゃんと暮らしていけるだろうか?」という不安や心配事による心労である――と、一般に言われている。
ところが、じゃあ実際にフリーランスをやっている私にその心配があるかといえば全くない。なぜならば、明日から仮にまったく無収入の状態が5年続いたところで(そんなことまずありえないが)暮らしていけるだけの貯金があるからだ。
そして私だってそこまで馬鹿ではないから、3ヶ月ほど無収入状態が続いた時点で今の仕事に見切りを付けて別のことに鞍替えしている。よって5年どころか半年も収入がない状態に陥るなんて、可能性としてまずありえないと言っていい。
「いいや、貯金がいくらあっても不安はつきないね!」という人もそりゃ当然いるかもしれないが、そういう人はきっとサラリーマンしていても「いつクビや倒産になるかわからないしやっぱり不安……」と、それはそれで別の悩みの種を抱えているだろう。間違いない。
そしてそもそも、いくら不安定と言っても今月だけ収入が0なんてことは実際そうないだろう。
冷静に考えて、たとえばあるときには月収100万、でも次の月には全くの0円なんてケースがそうそうあるか? ――ないでしょ。
あるとすれば海の家などの一定のシーズンにしか開店されないような商売をしている場合であるが、でもそういう場合はやってる当人も来月から収入がないなんてわかりきっていることなので、「来月収入ないじゃん! ウワアどうしようどうしよう!! あたふたー!!!」なんてことにはならないだろう。
基本的に夏にしか営業しない商売をしているのに、それが事前にわからないほうが問題である。そしてふつうは、わかった上でその仕事をやっているのだ。
総括
以上のことから、私は「収入が不安定であること」をデメリットとする風潮に懐疑的だ。
なんなら「定年までずっと働かなければならないくらい低収入のままで安定していること」のほうがよっぽど怖い。
(そしてそれがほとんどのサラリーマンの置かれた状況である)
しかしそれ以上に怖いのは、やってもみないでただ「独立するのは不安定だから」と自分にやらないための言い訳を続けた人生を歩んでしまうことだ。
もちろん、言い訳ではなく本当にいろいろと考えた上で導き出した結果であれば何も問題はない。
私も大手企業で働いていた経験があるのだが、優良大手企業でサラリーマンをやっているのならば下手に独立するよりも確かに人生の成功確率は高いだろう。
問題なのは、低収入でしかも法律も守っていないようなゴミカスブラック企業に勤めていながら、「独立するのは不安定だから……」とか「転職できるかどうかわからないし……」と何も行動しない人。
そういう人にはぜひこう言いたい。きみがデメリットだと勝手に思っているのは、本当はそうではないかもしれない。むしろマイナスなのがわかりきっているブラック企業にずっと勤めて、そのまま安定してしまうことの方がよっぽど危険である、と。